<磁石プロの視点>
光磁気記録は、磁性体(記録層)にレーザー光を当てて磁化の方向を変えることでデータを記録する技術です。再生する際は、記録面の磁化の方向によって反射光の偏向面が回転する(カー効果)を利用します。ただし、ご存じのように光磁気記録(MOディスク)は、他の媒体に負けて、すでに国内の主要メーカーでの生産・販売が終了しています。
今回の発表の段階では、光磁気記録がストレージとしてもう一度よみがえって、高容量化したSSDやHDD、安価なCD-RやDVDを脅かすまでになるのはまだ難しそうです。
しかしながら、近年、飛躍的み研究が進み、その応用デバイスも開発されつつあるスピンメモリに対しては大きな貢献ができる可能性を秘めているのではないでしょうか。
<発表研究機関とニュースソース>
東北大学、2025年1月2日『Physical Review Letters』誌に論文掲載および1月7日プレスリリース
東北大学 学際科学フロンティア研究所 1月7日トピックス
<発表のポイント>
◆白金を混合した金属磁性体ナノ薄膜において、従来よりも約5倍効率のよい光磁気トルク(注1)を観測しました。
◆光磁気トルクの増強が、円偏光によって発生する電子軌道角運動量(注2)と相対論的量子力学効果(注3)に起因することを明らかにしました。
◆電子軌道角運動量の物理に新しい知見を与えると同時に、光を用いた高効率のスピンメモリや磁気ストレージデバイス技術の開発に寄与する成果です。
<発表の概要>
現在、電子技術と光技術を融合する光電融合技術の開発に多くの機関や企業が取り組んでいます。光と磁気を用いたナノ磁性体(ナノは10億分の1)の制御もそのような次世代の融合技術の一つとして期待され、その基礎・応用に関する研究が精力的に進められています。
東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の抜井康起大学院生は、同大学学際科学フロンティア研究所(FRIS)の飯浜賢志助教(研究当時;現在、名古屋大学准教授)ならびに同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の水上成美教授らと共同で、典型的な金属磁性体であるコバルトに白金を混合した合金ナノ薄膜の円偏光によって発生する光磁気トルクを観測したところ、白金を混合しないコバルトナノ薄膜に比較して約5倍大きな光磁気トルクが発生することを見出しました。光の強度を約5分の1に弱めても同じ効果を生じさせることができるため、より省エネルギーの光磁気デバイスの開発につながります。


本研究では、典型的な金属磁性体であるコバルトに様々な濃度の白金を最大で70%まで固溶した合金ナノ薄膜を作製し研究を進めた結果、白金元素に特有の相対論的量子力学効果が、円偏光によって発生する電子軌道角運動量に由来する磁気トルクを増強することが明らかになりました。
金属磁性体における電子軌道角運動量の物理に新しい知見を与えるとともに、光を用いて情報を書き込む高効率のスピンメモリやストレージ技術の開発に寄与する成果です。
本研究は2025年1月2日に学術誌Physical Review Lettersのオンライン版に掲載されました。
<用語解説>
注1. 光磁気トルク
トルクはねじりモーメント(回す力・ひねる力)のこと。磁性体に光を入射すると、磁性体の磁気に作用するトルクが発生する。磁気トルクは磁気の方向を変化させるため、光によって磁気の方向を制御できる。絶縁体や金属を問わず様々な磁性体でこのトルクが見出されており、その物理メカニズムも異なる。
注2. 電子軌道角運動量
固体中の電子の軌道運動に起因する軌道角運動量。電子の自転運動に起因するスピン角運動量に加えて、軌道角運動量の工学的利用が最近検討され始めている。
注3. 相対論的量子力学効果
相対性理論を取り入れた量子力学から予測される効果。ここではいわゆるスピン軌道相互作用を指す。白金や金、あるいは鉛といった重い元素で顕著に現れる。
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