ウクライナのレアアース

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<磁石プロの視点>
 米国のトランプ大統領はウクライナのレアメタル資源、その中でもレアアース(希土類)資源に目を付けて中国のレアアース独占に対抗しようとしています。しかしながら、大きな問題が三つあります。
 一つは、「レアアース鉱床の規模、すなわちレアアースの埋蔵量が期待できるほどの規模ではない」ことです。二つ目は、「産業、軍事など広い分野ので利用されている高性能ネオジム磁石に必要な重希土の含有量が不明(おそらく少ない)である」ことになります。さらに三つ目は、「採掘後の原料の加工、すなわち”鉱石からレアアース金属を分離・精製する技術と設備をどうするか?」ということです。特に三つ目の問題は、現在、中国が世界の加工能力の90%を握っていて、短時間で解決できる問題ではなさそうです。残念ながら、ウクライナのレアアースによって、世界のレアアース資源問題やネオジム磁石の原料問題が救われることはなさそうです。
 

<ウクライナのレアメタル鉱床>*Bloombergニュースより抜粋
 トランプ米大統領が軍事支援の見返りとしてウクライナの資源の支配権を握ろうとしているため、同国の鉱物資源に注目が集まっています。しかし、実際にどんな資源があるのかについてはほとんど知られていないのが現状です。
 さまざまな報道によると、ウクライナには10兆ドル(約1520兆円)以上の価値がある鉱物資源があるとされ、同国政府は軍事・経済支援を求める際に交渉材料として重要資源の存在を前面に打ち出しています。米地質調査所のデータに基づくブルームバーグの計算によると、米国は昨年、レアアース、チタン、ジルコニウム、グラファイト、リチウム、合わせて約15億ドル分を輸入しました。

<ウクライナのレアアースは採算性に疑問符?>*Bloombergニュースより抜粋
 しかし、ウクライナには経済的に採算が合うと国際的に認められた主要なレアアース鉱床はありません。ウクライナは幾つかのレアアースについて埋蔵量を報告していますが、その潜在的可能性についてはほとんど知られていません。そのほとんどはリン酸塩のような素材の生産の副産物であるようですが、一部はロシアの支配地域にあります。
 ウクライナのレアアース鉱床に関する情報は主に政府データに基づいていますが、同国の地質調査の元責任者でさえ、自国の資源に関する近代的な評価は行われていないと述べています。
 ウクライナに採算の合うレアアース鉱床があるとしても、欧米には克服しなければならない大きな課題があります。採掘は比較的容易ですが、原料の加工ははるかに難しいのです。
 中国は供給の約60%を担っていますが、分離と精製能力では約90%を占めています。また、半導体へのアクセスを巡る米国との緊張が高まる中で、中国はレアアース関連の規制を強化しています。
 ウクライナとの取引は、中国の措置による「問題を解決するものではない」とみられています。米国にはまず、中国国外で分離と磁石製造を行うバリューチェーンが必要ですが、現時点ではそれが存在していないと考えられます。

<ウクライナのレアアース以外の資源>*Bloombergニュースより抜粋
 ウクライナは前図で示したように、リチウム、グラファイト、チタンの埋蔵量があることを積極的に売り込もうとしています。リチウムについては欧州最大の埋蔵量があるとしており、チタンについてはイルメナイトとルチルと呼ばれる2種類のチタン含有鉱物の生産量で世界トップ10に入っています。
 チタン、イルメナイト、ルチルは、ウクライナにある主な原材料ですが、これらは世界中に存在しており、採掘のしやすさ、加工のしやすさ、輸送のしやすさが重要になるとみられていて、これらのレアメタルについても採算性が問題になりそうです。


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