【産総研の永久磁石研究開発-1】*産総研ホームページより
ネオジム磁石を超える新しい永久磁石の開発が、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)の「次世代磁石研究グループ」で進められています。すでに一部の成果は、9月24日号の「高性能サマリウム磁石の開発」の中でお伝えしましたが、さらに詳細な研究開発の状況や具体的な研究テーマについて、産総研のホームページ上で報告されています。(順不同)
◆ネオジム磁石を超える新しい磁石をつくる
◆新しい永久磁石を作る先端粉末冶金技術の開発
◆高品質なサブミクロンサイズ希土類磁石粉末の合成
◆熱プラズマ法による金属ナノ粉末合成技術の開発
◆低酸素粉末冶金技術の開発 低酸素微粉砕技術の開発
◆粉末コーティング技術の開発 高性能バルク磁石のための強加工技術開発
◆巨大保磁力Sm2Fe17N3磁石粉末の合成
◆世界初のSm2Fe17N3焼結磁石を目指して
◆準安定型永久磁石材料の創製 ナノコンポジット磁石の挑戦
以下、今回から数回にわたって、上記各研究テーマのご紹介と、「磁石プロの視点」でのテーマの意義や課題などを解説してゆきたいと思います。
<ネオジム磁石を超える新しい磁石をつくる>*産総研ホームページより
「サマリウム-鉄-窒素磁石(Sm2Fe17N3)」はネオジム磁石の3倍以上の保磁力を発現する潜在力があることから、ポストネオジム磁石の有力候補です。しかし、実際にはネオジム磁石を超える保磁力は実現されてはいません。さらに、 Sm2Fe17N3は熱劣化のために焼結磁石は困難とされてきました。その他にも、「準安定相希土類磁石」や「ナノコンポジット磁石」は既存材料を大幅に超える磁石特性が期待されていますが、未だ実現可能性は示されていません。当グループでは、独自の粉末冶金技術を活用・開発し、これら次世代磁石の実現を目指しています。
- 還元拡散法によるサブミクロン粉末合成技術によって、2.8テスラ以上の巨大保磁力Sm2Fe17N3粉末を実現しました。
- Sm2Fe17N3の焼結における熱劣化メカニズムを解明し、それに基づく低酸素プロセスの開発によって世界で初めて異方性Sm2 Fe17N3焼結磁石の実現性を示しました。
- 熱プラズマ法や強加工法などを駆使して、ThMn12型やTbCu7型と呼ばれる準安定相希土類磁石や、ナノコンポジット磁石の実現を目指しています。
<磁石プロの視点>
ネオジム磁石を超える高性能永久磁石に必要な基本的な物性条件は、(1)飽和磁化MS、(2)異方性磁界HA、(3)最大エネルギー積(BH)maxなどがネオジム磁石より大きい値を持つことが求められます。研究者たちはこれらの条件を満たす様々な合金、化合物を探索してきました。
そんな中で、SmFeN系金属間化合物にスポットライトが当てられ、さまざまな組成での研究が続けられてきました(前図参照)。ご存じのようにこの系はすでにボンド磁石で実用化されていますが、産総研はSm2Fe17N3を次世代の永久磁石として、異方性焼結磁石の実用化を試みています。さらに、Smの使用は、ある程度の生産量までという条件はつきますが、レアアースのバランス利用の面からも注目されています。
次回からは、ポストネオジム磁石として産総研がどのような手法でSm2Fe17N3系の実用化を目指しているのかを探ってみましょう。
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