レアアースフリーの窒化鉄永久磁石実用化へ -Niron Magnetics

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<磁石プロの視点>
 鉄(Fe)に窒素(N)を取り込ませた鉄窒化物の磁性材料(Fe₁₆N₂)はレアアースフリーであり、且つその飽和磁化がネオジム磁石の2倍近くになるという報告があり、次世代の永久磁石材料として大きく注目されてきました。そして、世界各国の研究機関や企業がこの材料の実用化にしのぎを削っているところ、最近になり、米国のNiron Magnetics社が実用化、量産化へ向けての事業を本格化させているようです。
 Niron Magneticsは3月16日、米国で「窒化鉄永久磁石:Iron Nitride permanent magnets」の新しい大規模製造工場(HVM:High-Volume Manufacturing)の建設候補地選定を正式に開始したと発表しました。この工場はすでに2025年に着工、2027年生産開始予定の年間1,500トン規模の第一量産工場に続く第二量産工場であり、投資額は最大18億ドル、その規模は年間最大10,000トンになる計画です。さらに、直近の8月18日の発表では、米国の国防省が同社の窒化鉄磁石の事業に1.5億ドルの融資を決め、中国のレアアース規制に対抗する具体的な政策の一つとすることを決めています。
 
 Nironが公表している「Niron Magnetics White Paper」では、Clean Earth Magnet®の残留磁化 Br は最大1.5 Tとされています。この値はほぼ焼結ネオジム磁石の高性能グレード以上になりますが、実際に量産製品がどのような磁気特性になるのかはまだ不透明です。一部では、次図のように1-5系サマリウムコバルト(SmCo5)と同じような磁気特性ではないかともいわれています。また、製法は同社独自の製法だということですが、「US 11,309,107 B2」によれば「Fe₁₆N₂材料」+「ナノ粒子製造」+「磁気配向」+「磁石成形」+「エポキシ樹脂硬化」としていて、今のところ、異方性ボンド磁石の分類である可能性が高いといえます。(関連USP情報は最終項に掲載)
 
 日本のASPINA(シナノケンシ)がモーター用磁石として、Niron社と協業を発表しているように、すでに「窒化鉄永久磁石」は実用、量産段階に移行してきているようです。性能の不透明さは残っていますが、いよいよレアアースフリー永久磁石が現実味を帯びてきたようです。

       既存の永久磁石と窒化鉄永久磁石の分類・比較(窒化鉄磁石は推定値)


<プレスリリース>Niron Magnetics 2026.03.16
Niron Magnetics Advances U.S. Permanent Magnet Manufacturing Plans

https://nironmagnetics.com/niron-magnetics-advances-u-s-permanent-magnet-manufacturing-plans/?utm_source=chatgpt.com

<プレスリリース>Niron Magnetics 2026.08.18
NIRON MAGNETICS RECEIVES $150 MILLION LOAN FROM THE SHAKOPEE MDEWAKANTON SIOUX COMMUNITY TO SUPPORT IRON NITRIDE MAGNET MANUFACTURING

https://nironmagnetics.com/niron-magnetics-receives-150-million-loan-from-the-shakopee-mdewakanton-sioux-community-to-support-iron-nitride-magnet-manufacturing/

<プレスリリース>ASPINA(シナノケンシ株式会社)2026.07.14
ASPINAとNiron Magnetics、レアアースフリー磁石を用いた次世代モータ開発に関する協業を開始

~調達リスク低減と持続可能なモータ供給体制構築に貢献~
https://jp.aspina-group.com/ja/news/release/2026071401/

Niron社のレアアースフリー窒化鉄磁石(緑色部分)を用いたASPINA製ブラシレスDCモータ

<Niron Magneticsの主要USP>
1.異方性窒化鉄永久磁石
Anisotropic Iron Nitride Permanent Magnets
米国特許:US 11,309,107 B2
出願:2021年2月22日
優先日:2020年2月21日
特許成立:2022年4月19日
出願人・権利者:Niron Magnetics, Inc.
発明者:Francis Johnson、Richard W. Greger、John M. Larson、Yiming Wu、Fan Zhang、Kathryn Sara Damien
国際出願:WO2021168438A1
この特許は、Nironの窒化鉄磁石技術の中核特許の一つです。
ポイントは、α”-Fe₁₆N₂相を含む窒化鉄ナノ粒子を配向させ、異方性を持つ永久磁石にするという技術です。特許では、配向した窒化鉄ナノ粒子について、X線回折によるα”-Fe₁₆N₂の結晶配向や、磁化方向に対する角形性(squareness)などが規定されています。

2.異方性窒化鉄永久磁石の関連特許
こちらも同じ発明ファミリーに属する重要な特許です。
US 11,830,644 B2
特許成立:2023年11月28日
出願:2022年4月12日
公開番号:US 20220238263
権利者:Niron Magnetics
発明者:Johnson、Greger、Larson、Wu、Zhang、Damien

さらに、US 2024/0047102 A1も同じ「Anisotropic iron nitride permanent magnets」に関する継続出願です。優先日は2020年2月21日です。つまり、単一の特許ではなく、同じ基本技術を複数の米国出願で押さえていると見るのが適切です。

3.窒化鉄ナノ粒子そのものに関する重要特許
Coercivity-enhanced iron nitride nanoparticles with high saturation magnetization
国際公開:
WO2020237192A1
優先日:2019年5月22日
出願:2020年5月22日
Niron Magnetics
窒化鉄ナノ粒子および、それを使った磁性材料が対象
この技術は非常に重要です。Nironの狙いは単に「Fe₁₆N₂を作る」ことではなく、高い飽和磁化 + 高い保磁力を両立させることです。
関連する米国特許として、US 12,362,082も確認できます。これは2025年7月15日に成立しており、窒化鉄ナノ粒子のコア/シェル構造などが対象になっています。

    4.モーターへの応用特許
    さらにNironは、材料だけでなく窒化鉄磁石をモーターに使う技術にも特許を広げています。
    例えば、
    WO2025178978A1
    Variable-flux-intensifying electric machines using iron nitride permanent magnets
    があります。
    優先日:2024年2月20日
    国際出願:2025年2月19日
    公開:2025年8月28日
    現在:Pending(審査中)
    これは、窒化鉄永久磁石を使用した可変磁束型の電動機・発電機に関する特許です。
    Nironの特許を技術体系で見るとかなりきれいに4段階に分けられます。

    技術階層 Nironの特許領域 目的
    ① 材料 窒化鉄ナノ粒子 高飽和磁化・高保磁力
    ② 粉末 コア/シェル型Fe-N粒子など 磁気特性・窒化プロセス改善
    ③ 磁石 異方性α”-Fe₁₆N₂永久磁石 高性能バルク磁石
    ④ 応用 モーター・発電機 NdFeB代替

    このため、Nironの知財は単に「Fe₁₆N₂という材料の特許」というより、「ナノ粒子 → 配向 → 永久磁石化 → モーター応用」までを囲い込む特許ポートフォリオになっています。Niron自身も150件以上の特許を保有・出願中としています。

    特に注目すべき3件
    もし「Nironの窒化鉄磁石の特許を調査する」という目的なら、まず次の3つを見るのがおすすめです。US 11,309,107 B2
    → 異方性Fe₁₆N₂永久磁石の基本特許
    US 12,362,082
    → 高保磁力・高飽和磁化の窒化鉄ナノ粒子
    WO2025178978A1
    → 窒化鉄永久磁石を使った電動機への応用

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