南鳥島沖でのレアアース生産計画-2

この記事は約8分で読めます。

<磁石プロの視点>
 前回の「南鳥島沖でのレアアース生産計画-1」でもお話をしましたように、内閣府による「海洋開発重点戦略に係る重要ミッション(案)」では、日本の領海または排他的経済水域(EEZ)内でのレアアース資源の活用を実現するため、まず「レアアース泥」を深海から採取する技術を開発することを目指しています。永久磁石用途に限らず、レアアースは産業のビタミンであり、その自給自足が可能となれば、日本の将来にとって大きなメリットとなるはずです。
 さらに、他の海底資源についてもその採取技術、産業化について、種々のプロジェクトが進行し始めました。ご存じのように、日本の国土面積は約38万km2で、世界第61位に過ぎませんが、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積は約447万 km2で世界第6位です。したがって、豊富な海洋資源が活用できる技術開発の成否が、将来の日本の国力を左右することになりそうです。

<テーマの内容(前回に続く)>
(C) テーマ2—2:深海資源生産技術の開発(レアアース泥の採泥・揚泥技術)

研究/開発目標(C)

(1) 研究開発/技術開発の目標
【概 要】

  地球深部探査船「ちきゅう」を用い、2022 年度末までに深海に賦存するレアアース泥を、世界に先駆けて連続的に採泥・揚泥する技術の確立に貢献する。特に海底泥(レアアース泥を含む)を採泥・揚泥しやすい状態にする解泥から、揚泥管内に取り込む採泥、その後揚泥管内の流体の循環に乗せて船上まで運ぶ揚泥までの一連の作業を、実海域で実証することで、現場海域での解泥・採泥・揚泥の各々の作業に要する機器の仕様と効率の関係を確認し、効率良くレアアース泥を回収する手法の構築に資する。
○ 5 年間で達成する定量的な目標: レアアース泥の解泥・採泥・揚泥を行う技術の実現に資する蓄積する。
○ 創出される成果: レアアース泥の解泥・採泥・揚泥のノウハウと、産業化に向けた解泥・採泥・揚泥に関する技術及び基礎データの蓄積。
○ 技術水準の位置付け: 2017年9月、JOGMECにより沖縄の1,600mの海底にある熱水鉱床から連続揚 鉱に成功したが、本研究開発で目指すのは、水深 5,000m~6,000m に存在し、粘性度の大きいレアアース泥の解泥・採泥・揚泥技術に資する知見の蓄積である。このような取組は、国内外ともになく世界初であり、この成果を利用すれば世界で初めて深海鉱物資源の生産が可能となる。
○ 社会への波及効果: レアアース泥等海底資源開発の産業化に向けた基礎的技術が確立され、産業活性化のみならず、産業立国日本に不可欠な鉱物資源の安定供給に貢献し、他国の政策に左右されない資源安全保障への寄与も期待される。
○ 技術の現状TRLレベルと計画終了時のレベル(技術開発の進捗度合)
 ➢ 水深2,000m以深の深海における解泥技術:TRL1→TRL4
 ➢ 水深2,000m以深の深海における採泥技術:TRL1→TRL3
 ➢ 水深2,000m以深の深海における揚泥技術:TRL1→TRL4

【実施方法】
研究開発を期間内に完了するため、また開発期間後の産業化の可能性をより高めるために、当初から民間の積極的な参加を促す。 全体方針の決定に当たっては、外部の有識者の意見等も参考にしつつ、計画全体が技術的に整合性の取れたものになるよう、検討・精査を行う。 全体方針決定後は、個々の要素技術に実績のある企業の知見を活用しつつ、概念検討に必要な数値・情報を実験・数値計算等により収集し、概念設計を完成させる。 概念設計完成後の設計・製作期においては、JAMSTEC管理・監督の下、民間企業が一体となって役割分担できる体制を構築し、計画を推進する。 なお、目標を達成するため、以下の工程を実施する。

○ 南鳥島沖のレアアース泥及びその上位堆積泥の力学的特性を把握し、レアアース泥の解泥・採泥・揚泥に必要となる基礎データを得るとともに、数値計算や各要素技術に対する実験を行い、解泥・採泥・揚泥に適する各種機器の必要条件を絞り込む。個々の要素の条件を調整し、環境負荷軽減にも配慮した最適な概念設計を作成する。
○ 概念設計を基に水深 6,000m 級解泥・採泥・揚泥機器の仕様を確定し、各機器の設計・試作を行う。解泥機については、陸上での性能確認後に、必要であれば浅海域で解泥試験を行い、その性能を確認する。
○ 揚泥管及び揚降ツールを製作し、3,000m 水深域において揚泥管等船上取り回し試験、揚泥管に加わる応力等の耐久性に関わるデータや、海水温、海流の影響等の深海での挙動調査及び揚泥性能確認試験を行う。
○ 「海域統合試験」を実施し、海底泥(海底面堆積物)を解泥・採泥・揚泥できる性能を確認する。
○ 技術課題及び運用上の課題を抽出し、機器改良や運用マニュアルの改訂を実施する。
○ 「海域統合試験」で取得された各機器の各種パラメータと海底面堆積物揚泥量に関するデータを用いて、水深6,000m からのレアアース泥回収において、シミュレーション等により全体システム及び各要素技術(解泥・採泥・揚泥)がその能力を有することを確認する。

【関係省庁】
  内閣府、文部科学省、経済産業省、国土交通省、環境省

(D)テーマ3:深海資源調査・開発システムの実証

研究/技術開発目標(D)

(1) 研究開発/技術開発の目標
【概 要】

 本プログラムの出口としては、産業界の主体的な参画の下に、開発された技術を継承・発展させつつ、様々なニーズに対応した海洋調査の受託や将来に向けた深海資源の探査・開発が行えるような体制を構築し、深海資源の産業化モデルの構築に道筋をつけることを目指す。そのためには、テーマ1、テーマ2-1、テーマ2-2から随時得られる成果を踏まえながら、ユーザーの要望や新たな技術の進展に的確に対応できるよう調査・開発システムの最適化を図り、テーマ1、2の研究開発の進め方にフィードバックしていく機能が求められる。これにより、ニーズとシーズのマッチングを図りながら、開発された技術の競争力強化に向けた好循環を生み出す仕組みを構築する。開発された成果は、適切な民間企業を選定して段階的に技術移転を行うこととし、これを受けた民間企業が調査サービスの提供や将来の資源開発に向けた事業検討を行うことを可能とすることが必要である。この一連の流れをテーマ 3 において集約して出口戦略を明確化していくとともに、実海域における調査・開発システムの統合的な実証を通じて民間への技術移転を行うことにより、産業化に向けて段階的にステップを踏んでいくことを目指す。 その際、出口となる新たな海洋調査の受託や深海資源の産業化モデルを構築するためには、民間企業自らがコストを抑えた調査を行う手法を開発し、効率的な運用を目指して改善を積み重ねることができるようにすることが必要であり、プログラムの初期段階から積極的な参画を求めていく。

【実施方法】
  公募により、次世代海洋資源調査技術研究組合(J-MARES)及び東京大学が、主要実施機関として選定された。J-MARES は以下の 4 課題すべて、東京大学は動向調査(レアアース泥関係)及び環境モニタリングに係るコスト削減関係を担当する。 加えて、出口戦略・産業化モデル・システム実証強化のために、伊藤忠商事(株)(伊藤忠)よりテーマリーダーを、第1期より統合海洋資源調査システムの実証に参画しているJ-MARES を代表してJGIよりサブテーマリーダーを招聘し、より一層の推進を図る。

○ 国内外の動向の調査・分析 第1段階(2018~2019年度)においては、深海資源開発を巡る国内外 の動向を総合的に調査・分析し、産業化に向けた課題を抽出する。特に、経済性に関連して、レアメタルの今後の需給見通しや価格動向について様々なシナリオを想定しつつ分析を行うとともに、市場開拓や経済性向上の可能性について幅広く情報を収集する。さらに異分野融合を促進するため、他業種における先端技術を取り入れて応用したり、逆に他分野へのスピンオフを図ったりすることができるよう、関連技術の動向を把握しつつ、最適なパートナーとの連携を強化していく。
○ 環境への配慮 環境対策に関連して、陸上での採掘と海中での採掘を比較・検証する。また、計画初年度より、SIP 第 1 期の成果である環境影響評価手法(開発機材を含む)を活用し、将来的にレアアース泥回収実証が予定される海域等において、事前の環境モニタリング(画像による生態系調査や遺伝子検査による生物分布調査等)を開始する。それらの取得データを基に、国際的な動向を踏まえ、将来の産業化を見据え、特に環境保全と経済性の両立に留意しつつ、環境負荷軽減のための手法を検討する。
○ 産業化モデルの構築 深海資源開発を事業化に向けて軌道に乗せていくためには、様々な困難な課題を克服するための技術力・資金力・マネジメント力が必要となる。世界との競争に打ち勝つためには、特色ある技術を組み合わせて最適なシステムを構築し、各企業の持てる強みを糾合していくことが不可欠である。海洋工学・資源開発に関連する企業はもとより、他分野の意欲的な企業の参画も得て、戦略的なパートナーシップを構築し、円滑な産業化を目指すことが重要である。このような産業化モデルを構築していく中で、オープン・クローズ戦略の明確化を図り、秘匿すべき情報やノウハウ、特許化により権利を専有すべき知的財産、国際標準化により共有化・普及すべき手法・型式を峻別し、それらの管理・活用方策を明確にしていく。 例えば、国立研究開発法人水産研究・教育機構(水研機構)は、海底調査技術、特に海底ターミナルを含むAUVの長期運用システムの水産資源調査、養殖生産工程等への応用をすでに検討している。
○ システム実証 2022年度において、中核となる民間企業の参画の下、それまでに開発された技術を集大成して、深海域において統合的な試験を行うことにより、深海資源の産業化モデルの構築に向けた総合的なシステム実証を行う。 もとより、レアアース泥が賦存する南鳥島周辺海域(水深5,500m~6,000m)においてシステム実証を行うことが最も効果的であり、将来の産業化に向けた見通しを確実なものとするためにこれを目指す。但し、資金的・時間的な制約の中で研究開発成果の最大化を図る観点から、最終的なシステム実証の対象・実施海域の選定については、2~3 年目の評価の段階において、それまでに得られた成果と社会的動向・見通しに基づいて、客観的に判断する。 このようなプロセスを経て、蓄積された技術やノウハウの民間への移転を円滑に進め、将来の産業化に向けて技術の継承・発展を支える基盤を確固たるものとする。

【関係省庁】
 内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省(防衛装備
 庁)、外務省

コメント

タイトルとURLをコピーしました