<磁石プロの視点>
日本の領海または排他的経済水域(EEZ)内で貴重なレアメタルが大量に眠っている話題は皆さんご存じかと思います。そして、ごく近いうちにレアメタルの中のレアアースの採取が、いよいよ本格的に始まることになりました。ただし、現在の開発計画をみると、2028年以降「南鳥島沖でレアアースを生産」ではなく「南鳥島沖でレアアース泥を採取」ということになります。6000mの深海でレアアース泥を採取して、分離・精製まで行うことは至難の業であり、まずはレアアース泥を海上まで引き上げ、分離・精製は地上プラントで行うことが現実的とみているようです。いずれにしても、日本の排他的経済水域(EEZ)内で眠っている貴重なレアアース資源を工業的に採取できる目途が立ってきたことを示すもので、鉱工業、経済、政治など各方面からの国家の大きなプロジェクトになってきています。
高性能希土類磁石の「レアアース資源」にもかかわる重要な研究開発であり、これからその中身について勉強してみましょう。
<開発計画の推移>
2021年5月26日 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局より「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 革新的深海資源調査技術 研究開発計画」が発表されました。
その後、2023年12月に、内閣府総合海洋政策推進事務局により、「海洋開発重点戦略に係る重要ミッション(案)」があらためて提出され、この中の重要ミッション②として、「特定離島である南鳥島とその周辺海域の開発の推進」があり、「2028年以降から南鳥島沖でのレアアース泥の採取」を実現することとしています。
<研究開発の概要>
日本は、四方を海に囲まれ、排他的経済水域(EEZ)を含めると世界第6位の海域を有する海洋国家です。海岸から沖合に向けて急峻で深い海が広がっており、そこには、経済社会の持続的な発展に不可欠な海洋鉱物資源の高いポテンシャルが推定されています。
本課題では、これら深海底の資源のうち、有望と目されるもののまだ世界的にも未着手となっている、レアアース泥を含む海洋鉱物資源等を対象とした技術開発を行います。具体的には、未だ解明できていない南鳥島海域のレアアース泥の概略資源量評価に必要な調査を行うとともに、資源量調査で明らかになったレアアース泥濃集帯に対し、深海底から船上にレアアース濃集部分を揚泥する技術開発を行います。今後のレアアース泥の広域調査等を実現するために必要となる、深海域において効率的に稼動可能とするAUV複数機同時運用システムを構築し、将来の深海鉱物資源開発に必要となる技術を確立するべく、挑戦的な研究開発を進めます。
本課題では、深海資源の調査能力を飛躍的に高め、水深6,000m以浅の海域の調査を可能とする世界最先端調査システムの開発を行います。また、民間への技術移転を行うとともに、これまでの技術では不可能だった深海鉱物資源の採泥・揚泥を可能とする技術を世界に先駆けて確立することを目指しています。
<研究開発テーマ>
主な研究開発項目を以下に記す。研究開発は、次の通り、調査・分析、技術開発、システム実証と大きく3つに分けられた4テーマで進めることするが、テーマ1、テーマ2-1、テーマ2-2 はそれぞれ独立して進めるのではなく、出口戦略となるテーマ3への技術移転を念頭に置き、テーマ間の十分な相互連携を持って進めることとする。
(A) テーマ1:レアアース泥を含む海洋鉱物資源の賦存量の調査・分析
(B) テーマ2—1:深海資源調査技術の開発 (深海AUV複数運用技術、深海ターミナル技術)
(C) テーマ2—2:深海資源生産技術の開発(レアアース泥の採泥・揚泥技術)
(D) テーマ3:深海資源調査・開発システムの実証
<テーマの内容>
◆(A) テーマ1:レアアース泥を含む海洋鉱物資源の賦存量の調査・分析
◆(A)テーマ1の研究開発/技術開発の目標 【概 要】
南鳥島海域のレアアース泥の高濃度分布域で、開発ポテンシャルの高いサイトの絞り込みを行った上で、テーマ 2-2「深海資源生産技術の開発(レアアース泥の採泥・揚泥技術)」等の技術開発に当該サイトの高濃度層の位置や泥質等の情報を提供するとともに、当該サイトの概略賦存量の評価を実施する。取得データに既存データを加えて、音響層序をもとにした表層堆積物の層相解析と地質学的なマッピング、各種地球科学的指標の特定を実施する。 加えて、テーマ 2-1「深海資源調査技術の開発(深海 AUV 複数運用技術、深海ターミナル技術)」によって導入される、水深6,000m域を含む海洋において運用可能なAUVによる海底面(高解像度)サブボトムプロファイラー(以下、「SBP」という。)調査を実施し、船上SBP における調査結果と比較し、海底面SBPデータの有効性を実証する。また、表層に分布するマンガンノジュールの密集度や海底面表層の特徴を音響調査と海底映像等から検討し、AUVによる調査の実用例を提示する。 それらの結果を分析し、2020 年度にレアアース泥の概略賦存量の評価を行う。なお、これまでに他国が海のレアアース泥の概略賦存量の評価を行った報告はない。
◆(B) テーマ2‐1:深海資源調査技術の開発(深海AUV複数運用技術、深海ターミナル技術)
◆(B)テーマ2-1の研究開発/技術開発の目標
【概 要】
水深2,000m以深の海洋において、精密な海底地形や海底下構造を複数AUVで効率的に調査できる深海 AUV 複数運用技術や長期間安定に調査可能な深海ターミナル技術を開発し、社会実装可能な深海資源調査システムを構築する。具体的には深海 AUV複数運用技術に関しては、5機のAUVの複数機運用を実証し、10機運用のための技術的な目処を立てるとともに深海ターミナル技術に関しては、目標として5日以上の連続運用が可能な深海ターミナル技術を実証し、運用のための技術的な目処を立てる。そのためステップバイステップの手法を用い以下の中間・最終目標を設定し、研究の進捗状況により研究計画の内容も各年度で精査し、開発を進める。
○ 第一段階: 複数の AUV に対して、同時に測位と通信を一括して行えるシステム及び深海ターミナ技術を開発し、段階的に水深2,000mまでの海域で実証を行う。 第二段階: 第一段階で実証できた開発技術を発展させ、技術的な有用性の確認のために、水深 6,000m 仕様の深海ターミナルを用いて水深 6000m の海域で長期潜航の実証試験を行うとともに、水深6,000mまでの海域においてAUVの複数運用技術の実証・運用を行う。
○ 創出される成果: 海底資源調査は、SIP第1期において熱水鉱床を主なターゲットとしていたが、それより深海の2,000m以深で、また、長期間調査可能な資源調査技術を確立することで更に深い海域に賦存するレアアース泥等への調査も可能となり、新たな海底資源調査・開発の促進につながる。
○ 技術水準の位置付け: 現状、欧州における世界最先端のAUV複数機運用技術はAUV1機に対し必ず海上中継器(ASV)が1機必要となるシステムとして構築されている。一方、SIP第1期では、ASV1機で複数のAUVを交互に制御・測位して運用しているが、この手法では機数が増えると制御・測位に遅延が生じ、制御困難な状況が生じる。そこで、本技術開発では、ASV1機に対して複数のAUVを同時に制御・測位可能な統合化システムを開発する。 また、音響通信速度を飛躍的に高めることにより、Society5.0 を見据えた、準リアルタイムデータ転送を可能とする。 結果、複数機運用の効率化が実証・実用化され、世界最先端の技術水準となる。 さらに世界に先駆け、2,000m以深での海中充電技術やドッキング技術などの深海ターミナル技術の開発により、母船への無着揚収による長時間運用が可能となり、運用の更なる高効率化が期待できる。
○ 社会への波及効果: 本技術の確立により、AUV 複数運用技術が未だ確立されていない、我が国の民間海洋調査会社等への実装が可能となり、深海調査活動の経済性が飛躍的に向上する。また、段階的に国内企業における音響通信等の標準化を推進すること、海底ターミナルの産業化を目指した実証をすることにより、水産、土木建設等への技術展開、新たな産業振興が期待される。
【実施方法】
開発期間後の本技術の社会実装を確実に可能とするため、及び開発をスピーディーに進めるために、技術開発は、原則技術成熟度(Technology Readiness Level:TRL)3以上の各要素技術を用い、それらの要素技術の組み合わせにより開発の目標を達成する手法を用いたシステム技術開発を行う。それとともに、SIP第1期においてAUV複数運用手法の研究開発を実施しているうみそら研や民間企業を含めた産学官で連携して効率的に開発を実施する。なお、目標を達成するため、以下に示す要素技術によるシステム技術開発を実施する。
○ 深海資源調査技術開発に必要な基盤的ツール 初めに、深海資源調査技術開発の中心的でかつ必要不可欠な装置である基盤的ツール:深海用AUV(6,000m仕様)、洋上中継器、AUV支援装置(音響測位装置等)を導入する。
○ 深海AUV複数運用技術の開発 ASV1機で複数の AUV を同時に運用(世界最高水準)するため、複数 AUV の制御に必要となる通信技術、測位技術等の要素技術を用いた同時制御システム技術を開発する。また、ミッションとして、AUV に既存のセンサー技術やこれまでの研究開発装置を搭載・装備し、精緻な海底地形や海底下構造の計測や環境モニタリング等を実施するためのシステム技術開発を行う。また、海底探査の高効率化・高精度化のための複数機 AUV の隊列制御技術の開発を行う。さらに、運用技術開発として調査の効率化に不可欠な、長期間の運用を可能とする ASV の長期運用が可能な開発を実施する。
○ 深海ターミナル技術の開発 深海における AUV の 5 日以上の長期運用を達成するための、深海での充電及びデータ伝送を可能とするシステム技術開発を実施する。
【実施体制】
内閣府、文部科学省、国土交通省、防衛省(防衛装備庁)
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