<需要が高まるレアメタル>
脱炭素化と経済成長を両立するための、ニッケル、コバルト、レアアースなど重要鉱物・レアメタルの争奪戦が激化しています。電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及に不可欠であり世界的に需要が高まる一方、産出国に偏りがあって安定的な供給が懸念されるためです。現在、日本は調達先を拡大しようと資源国との関係づくりに奔走しています。脱炭素化と経済成長の両立を目指す「GX(グリーントランスフォーメーション)」のためのサプライチェーンを構築することが急務になっているからです。
日産EV・アリア 洋上風力発電
<資源産出国の偏在>
例えばリチウム、ニッケル、コバルトはリチウムイオン電池の正極材の原料となり、いずれもEV製造に不可欠です。ネオジムは非常に強い磁力を持つネオジム磁石の主原料であり、EVのモーターや風力発電の発電機に活用されています。ジスプロシウムはネオジム磁石に混ぜて耐熱性を高めることができます。したがって、少量で最先端製品の特性を変えるレアメタルは「産業のビタミン」とも呼ばれます。ただ、こうした鉱物の産地は政情不安が懸念される国を含む限られた国に偏在しています。ニッケルはインドネシア、コバルトはコンゴ民主共和国、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアース(希土類)は中国がそれぞれ圧倒的なシェアを持っています。
鉄や銅、アルミニウムなどのベースメタルに比べ重要鉱物の市場規模は極めて小さく、価格の変動幅が大きいことが特徴です。巨額投資が必要にもかかわらず、採算性を見通しづらく、日本企業は鉱山開発に二の足を踏んできました。
キャサリンバレー・リチウム鉱山(オーストラリア)
<外交の武器に利用>
脱炭素化が進むとともに、レアメタルの入手がますます難しくなりそうです。国際エネルギー機関(IEA)によると、数年後には需要が供給を上回り、レアメタルを埋蔵している資源国の強力な外交上の武器になりそうです。
ニッケル生産量が世界一位のインドネシアはニッケル鉱石の輸出を禁止して、国内での精錬、生産に軸足を移し、付加価値を高めようとしています。また、フィリピンも同様の政策を進めています。また、レアアースについても2010年に中国が輸出制限をして価格高騰を招き、世界的に大きな問題になったことがありました。
<欧米・中国による囲い込み>
米中対立やロシアによるウクライナ侵攻により、石油、天然ガスのサプライチェーンの分断が深刻化したのをきっかけに、欧米では鉱物資源も同様な事態に陥ることを想定して、レアメタルの囲い込みを進めています。
米国では2022年にインフレ抑制法が成立して、搭載バッテリーが北米で製造されたEV購入者の税控除を行い、レアメタルのシェアが高い中国製品を排除する動きに出ていて、同様な政策もEU(欧州連合)でも始まっています。
一方、中国は資源国の鉱山権益を買収するなど、強力な囲い込みを進めています。例えば、チリやオーストラリアのリチウム採掘権益の20%以上は中国資本であり、多くの精錬工場権益も握っています。
採掘が再開されたマウンテンパス・レアアース鉱山(米国)
<争奪戦に遅れた日本>
日本は今年6月、「GXを見据えた資源外交の指針」を策定しました。外交上、重点的に働き掛けるべき25カ国を選んで5類型に区分し、それぞれの国と関係を強化する方針を打ち出しました。
1,包括的辿携国(先進国) 米国、オーストラリア、カナダ、ノルウェー
2,伝統的安定供給国(産油国) UAE、オマーン、カタール、サウジアラビア、チリ
3,環境整備国(新興国) コンゴ民主共和国、ザンビア、ナミビア。
パプアニューギニア、ペルー、マダガスカル、モザンビーク
4,地域連携国(ASEAN) インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア
資源開発促進のため、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じ探鉱事業を手掛ける中小企業に投資するほか、製錬会社や自動車メーカーなどと組んで権益確保を目指します。リサイクルも重要であり、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域で、廃家電から金属を回収し、再資源化する技術協力を進めます。日本国内だけではリサイクルが不十分なため、ASEAN地域で必要な需要量を確保します。
しかし、日本は争奪戦に後れを取った感は否めません。これから、どの程度資源保有国に食い込めるか、外交力が試されます。
2024年9月8日 ネオマグ株式会社
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