87. 期待される新規ネオジム磁石化合物

＜新規ネオジム化合物＞
ハイブリッド自動車の駆動モーターとして使われているネオジム磁石よりも少ないレアアースで、同等以上の優れた磁気特性を持つ新規磁石化合物 NdFe₁₂N_xの合成に、物質・材料研究機構の宝野和博フェローのグループが成功した。佐川眞人博士が1982年に発明した世界最強のネオジム磁石の主成分の化合物に匹敵する新規化合物が32年ぶりに見つかったことで、さらなる新規磁石開発が夢物語でないことを示した。2014年10月20日付の金属系材料の国際速報誌Scripta Materialiaオンライン版に発表した。

ここで、新規ネオジム磁石材料として期待される化合物の一例をご紹介します。

ハイブリッド自動車の駆動モーターとして使われているネオジム磁石よりも少ないレアアースで、同等以上の優れた磁気特性を持つ新規磁石化合物 NdFe₁₂Nxの合成に、物質・材料研究機構のグループが成功しました。佐川眞人(さがわまさと)博士が1982年に発明した世界最強のネオジム磁石の主成分の化合物に匹敵する新規化合物が32年ぶりに見つかったことで、さらなる新規磁石開発が夢物語でないことを示したといわれています。

この成果は2014年10月20日付の金属系材料の国際速報誌スクリプタマテリアリア（Scripta Materialia）オンライン版に発表されました。

本セミナーで何回もお話をしていますが、ネオジム磁石に含まれるネオジムやジスプロシウムはレアアース(希土類元素)で、その産出が特定国に集中しているため、レアアースに頼らない磁石の開発が待望されています。ネオジム磁石はネオジム2：鉄14：ホウ素1という磁石化合物(ネオ鉄ボロン)が主成分で、高い異方性磁界と高い磁化のために、それを主成分として作られる磁石は世界最強の磁石としての評価が確立しており、「これ以上の強度の磁石は開発できない」とさえいわれていました。

また、これまでの研究で、NdFe₁₁TiNは安定に合成できる磁石化合物として知られてはいましたが、しかし、磁性を持たないチタン(Ti)が添加されているため、磁石としての性能はネオジム磁石より劣り、ほとんど注目されてきませんでした。この研究では非磁性元素のチタンを使わずにNdFe₁₂の結晶を安定化して成長させ、それを窒素ガスの中で加熱することにより、厚さ350nmのNdFe₁₂N_x化合物の膜を合成しました。その物性値を測定して、異方性磁界が室温で約 8テスラ、磁化もすべての温度の領域でネオジム磁石以上の磁気特性を持つことを見いだしたのです。

この化合物の磁気特性は高温で現在のネオジム鉄ボロンをしのぐため、この化合物で磁石を作ることができれば、ハイブリッド自動車用磁石で大量に使われているジスプロシウムを使わなくても、優れた磁石特性が得られると期待されます。また、Nd₂Fe₁₄BではNdの質量比が27%であるのに対し、 NdFe₁₂N_xではNdの質量比がわずか17%で済むために(x=1として算出)、レアアースの使用を大幅に削減できます。したがって、資源的・価格的に有望な化合物といえるのではないでしょうか。

しかしながら、この化合物発表の段階ではあくまで薄膜としての磁気特性であり、実際に使えるバルクの磁石にする研究はこれから始まることになります。まずは、安定なNdFe₁₂N_xの粉末を大量に作り、磁石の形に固めてゆく方法を開発する必要がありますので、実用化はかなり先のことになりそうです。

いずれにしても、このような発見を突破口に、レアアースが少なくて、ネオジム磁石を超える新規な強力磁石の可能性を探求する研究開発が、産学で加速することを望んでやみません。