70.ネオジム磁石の熱減磁-可逆減磁と不可逆減磁

この記事は約4分で読めます。

<可逆減磁と不可逆減磁>
ネオジム磁石を室温より高い温度で磁束密度を測定すると、室温での測定値より低い値になる。その後室温に戻した際に磁束密度が元の値に戻っている場合を
逆熱減磁」または「可逆温度変化」という。また、室温に戻しても元の値に戻っていない(減磁している)場合を「熱減磁」または「不可逆温度変化」という。
これらの現象はB-H減磁曲線の折れ曲がりとパーミアンス直線の交点の位置に大きく関係している。

このページは「熱減磁」についてですが、少々込み入った話になり、時間も長くなりますので、注意深くお聞きください。

着磁済みの磁石は周囲の温度が変化すると、熱エネルギーの関係で磁気特性が変化します。元の温度に戻ると磁気特性も同じ値に戻る変化を、「可逆減磁」と呼び温度が戻っても磁気特性が戻らない変化を「不可逆減磁」と呼びます。
熱による不可逆減磁は磁石が短時間でもある温度以上の環境に置かれると元の温度に戻っても最初の磁気特性に戻りませんから、減磁が大きい場合は応用機器の性能を大きく劣化させてしまいますので大変問題になってしまいます。

それではネオジム磁石の熱による不可逆減磁について調べてみましょう。
この図はネオジム磁石の20℃と200℃における減磁曲線のJH曲線とBH曲線をモデル化して描いたものです。

ここで、磁化方向の厚みが厚くパーミアンス係数が大きな磁石は青色のBH曲線上の動作点が20℃でa点のようになります。そして200℃では、200℃のBH曲線上のb点に移行し、動作点の磁束密度はBd20からBd200に低下します。この場合、b点はまだB-H曲線の直線上にありますから、温度が20℃に戻れば、動作点はa点に戻り動作点の磁束密度はBd20に回復します。このような変化を「可逆減磁」あるいは「可逆温度変化」といいます。

ところが磁化方向の厚みが薄くパーミアンス係数が小さい磁石の場合、20℃におけるBH曲線上の動作点がa’点のようになり、200℃ではb’点に移行します。b’点はB-H曲線上の折れ曲りより下にあるため、温度が20℃に戻っても、動作点はa’点に戻らず、c’点にとどまってしまい動作点の磁束密度はBd20まで戻らず減磁してしまいます。このような減磁を熱減磁と呼び、不可逆減磁の大きな原因となります。「減磁の度合い」は、材質、磁石特性、温度係数、形状によるパーミアンス係数などの要素により異なってきます。

不可逆減磁を防ぐためには環境温度が高くなっても動作点が常にBH曲線の直線上になるようにしなければならず、そのためにはBH曲線の屈曲点より高い位置で交差するようなパーミアンス係数が必要であり、そのようになる磁石形状を選ぶことが重要になります。

一方、磁石の形状に制限があり、やむを得ずパーミアンス係数が低くなる場合は、高温度でもBH曲線に折れ曲がりがない磁石、すなわち十分大きな保磁力Hcbが必要であり、材質でいえば十分大きなHcjをもつ磁石を使わなければなりません。

再度まとめますと、ネオジム磁石の高温使用では可逆減磁・可逆温度変化の領域で使用するために、磁化方向の厚み寸法を大きくして、パーミアンス係数を大きくするか、Hcj、Hcbが十分大きな材質を選定する必要があるということです。

最後に不可逆減磁には熱によるもの以外に、経時変化によるものや磁気回路の中の逆磁場によるものもありますので、覚えておいてください。
まず経時変化の影響ですが、着磁済みの磁石は、先に述べた熱減磁のほか、やはり熱エネルギーの関係で、時間が経つにつれ徐々に磁化が劣化します。この値は一般的には小さなものですが、日にち、年数が長くなれば全ての磁石に現れる傾向です。劣化の度合はやはり磁石の形状(パーミアンス係数)、使用温度、材質などによって変わってきます。また、錆などのような磁石の化学変化や変質、加工によるひずみの蓄積なども経時変化の要因になります。特に磁石が小さいもの、薄いものはこの経時変化にある程度の注意が必要です。しかし、最近の磁石はめっきなどの防錆技術の進歩や経時変化への各種対策の導入により、経時変化は実用的にはほとんど問題にならなくなってきていますのであまり心配する必要はありません。

次に、逆磁場による不可逆減磁があります。磁気回路の中で磁石に逆磁場がかかる場合はその磁場により動作点が低くなってきます。つまり、パーミアンス係数が磁石単体より小さくなったと同様の状況となるわけです。
したがって、磁石単体のパーミアンス係数がある程度大きく、使用最高温度でも動作点が屈曲点より上に位置していても、逆磁場により動作点が屈曲点より下にきてしまい、予期しない不可逆減磁が起きてしまう場合があるということです。場合によっては温度だけでなく逆磁場の大きさも勘案して材質や形状を決定する必要があります。

それでは次のページからは、実際の磁石について、形状や材質が異なると、いいかえればパーミアンス係数や保磁力Hcjが異なるとどのような熱減磁が起こるか例をあげてみました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました